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名古屋高等裁判所 昭和45年(ネ)202号 判決 1972年11月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は次のとおり付加する外は原判決事実摘示のとおりであるからそれをここに引用する。

(控訴人の主張)

1、本件土地は昭和三五年二月一七日の契約(第一回契約という)で控訴人から被控訴人に売却され、更に同三七年一月二九日の契約(第二回契約という)で被控訴人から控訴人に売渡されることになつたものであるから、遅くともこの第二回契約時に被控訴人は第一回契約の売主が控訴人であることを知つていたのである。なぜなら被控訴人は第二回契約の買主が控訴人で、それは買戻すものであることを知つていたからである。

2、仮に然らずとするも、第二回契約締結後間もなく、真野綱一の測量で坪数不足を知つた控訴人は、その頃被控訴人に第二回契約の代金を坪数不足のため減額してもらわねばならぬが、第一回契約の売主が控訴人、その以前の売主が近藤銀市であつたので、近藤銀市との契約時に遡つて順次代金の清算をやらねばならず、そのためには相当の日数を要するから第二回契約の受渡期日を延期してもらいたいと申し入れているので、遅くともこの時点で被控訴人は第一回契約の売主が控訴人であり、坪数が不足していることを知つていたのである。

3、被控訴人は、被控訴人と近藤銀市間の名古屋地裁昭和四二年(ワ)第一六八五号事件についての昭和四二年一一月二日の本人尋問において売主ははじめ控訴人と思つていたが契約書を見て近藤銀市ということが判つたと供述しているが、契約書に売主が何人であるかは書いていない。仮に被控訴人が契約書を見て控訴人が売主だと思つていたのが間違いだと気づいたとすれば、契約上、売主が誰かということは重大問題であり殊に本件物件の登記名義人が近藤銀市とも異なる近藤銑市となつているのであるから被控訴人としては当時実際の売主が誰かについて仲介人の加藤博正や控訴人に尋ねないはずはない。又前記事件で売主とされた近藤銀市は昭和四二年七月三日付の答弁書で売主であることを否定しているから少くともこの答弁書を提出した時点で被控訴人は売主が控訴人であることを知つていたことは明白である。

(被控訴人の主張)

控訴人主張どおり二回の売買契約が成立したことは認めるが第一回契約において加藤博正は同人が売買の仲介をする旨明らかにしたので被控訴人は売主は近藤銀市だと信じていたので被控訴人は同人を相手に代金減額請求訴訟を提起したのであり、第二回契約においても買主は近藤銀市で加藤博正は仲介をしているものと考えていたのであり、控訴人はこれらについて表面上全く関与していないためその存在を知り得るはずがなかつたのである。これらは控訴人と加藤博正が税金を軽くするため事実を隠していたため起つたことで被控訴人に過失はない。

(証拠)(省略)

理由

一、本件に対する原判決の事実認定と判断は、原判決掲記の証拠に当審で提出された成立に争のない乙八、一〇、一一、一四号証、同九号証の一、二、当審証人真野忠治の証言、同加藤博正の証言とそれにより真正に成立したものと認められる乙四、一二号証、当審証人高木善治の証言とそれにより成立の認められる乙一三号証、控訴本人、被控訴本人の供述を加えて行つた当裁判所の事実認定、判断と一致し、控訴人の本件控訴は理由がないものと認められるので、次の理由を付加して原判決の理由全部をここに引用する。

二、控訴人の除斥期間経過の主張は、要するに被控訴人が本件土地の坪数不足と、売主が控訴人であつたことを知つたのは、乙一号証による第二回契約が成立した昭和三七年一月二九日当時又はそれより間のない頃であり、特に売主の点は右第二回契約は控訴人が被控訴人から本件土地を買戻す契約をしたのであるから、このことから被控訴人が前記のことを知つていたことは明らかであるというが、原審並に当審における被控訴本人の供述によれば、控訴人は第二回契約時にも仲介人となつた加藤博正を通じ被控訴人に坪数不足と第一回契約の売主が控訴人であると伝えたことはないことが認められ、当審証人加藤博正の、控訴人は坪数不足を理由に被控訴人に対し第二回契約の履行期の延期を申入れたとの証言は同人の原審における証言と比較して措信できないのでこの主張は採用できない。

又控訴人は被控訴人がさきに近藤銀市に対し本訴と同じ訴訟を起したのに対し近藤銀市が昭和四二年七月三日付の答弁書を提出した時、被控訴人は売主が控訴人であることを知つていたというが、原告である、被控訴人の請求を争う被告の答弁書に書いてあることを相手方がそのまゝ信用することはないから、これを以て被控訴人が控訴人が売主であつたことを知つていたということはできない。

尤も成立に争のない甲四号証によれば、前記別件訴訟において、被告の近藤銀市が昭和四三年一月二七日の被告本人尋問にて同人が本件土地を売渡した相手は被控訴人でなく、控訴人に売渡したのであると供述しているので、この供述で被控訴人が本件土地の売主は控訴人であることを知つたとするも、それより一年以内に提起された本訴は適法といわねばならない。

尚控訴人は第二回契約の買主が控訴人であつたから、被控訴人は第一回契約の売主が控訴人であること、即ち当然買戻しであることを知つていたという趣旨の主張をなしているが、原審並に当審における被控訴本人の供述によれば、被控訴人は仲介人の加藤博正を通じてこの取引をしたのであつて当時被控訴人が第一回契約の売主、第二回契約の買主がともに控訴人であることを当然知つていたとは認められないのでこの主張も採用できない。

三、よつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却し控訴費用の負担につき民訴法八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。

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